柔細胞とは何か。
柔細胞とは抄紙材料にふくまれる非繊維細胞の一種で、非木材繊維素材においては、その主要なもの
外には導管節、表皮細胞があるが、非木材には導管節は少なく、表皮細胞もはぎ取られている。
木材パルプでは柔細胞は長い細胞状で存在するが、蒸解漂泊洗浄の工程でほとんど失われて影響は少ない。
非木材では柔細胞の量も多く、影響が大きい。柔細胞は本来は貯蔵細胞で、植物体の養分を原形質として蓄積しておく役割をもつ。細胞壁は薄く、乾燥するとつぶれて紙の中で一定の面積をとる。長円形の大きなものと小型で円形に近い物の2種類があり、どちらもヘミセルロースに富み、接着剤として有効な繊維間結合をもたらす。繊維細胞のフィブリル化による表面積の増大をともなわなくても、繊維間接触が行われ、紙の強度を強くする。
たとえば三椏には柔細胞が約10パーセント含まれ、これは三椏紙の強度・風合いなどの脂質を形成する上で、顕著な効果をもっている。これはコウゾ、ガンピについても同様である。
(以上『印刷局研究所、研究所時報別冊、非木材パルプ特集』より要約)
柔細胞の単体写真
ブナ材を構成する細胞(江前敏晴提供)
dが長い柔細胞、h,i,j が小型の柔細胞
(作成中)
美濃紙内部の柔細胞(黄色く染まったものが柔細胞)。
これは繊維内での存在状態ではなく、毛羽の部分を染色したもの。繊維内に存在していた時は、この黄色い粒子が接合して、膜状になっているものと考えられるが、それから分離している。)
柔細胞の繊維内存在状態の特徴
美濃紙は相当量の柔細胞を含み、それがしばしば膜を形成しているようにみえるのが特徴である。顕微鏡観察では、「繊維と繊維の間に透明な膜のようなものがあり、その膜が小粒の透明な丸いものがびっちり詰まってできているようにみえる」と説明できるが、この小粒の透明な丸い物は見ようによっては澱粉粒と同じで、両者を区別するには若干の経験がいる。澱粉粒との区別は、(1)一粒一粒の分離が澱粉ほど明瞭でない、(2)澱粉粒はしばしば輝き透明であるが、輝度・透明度は落ちる、(3)澱粉粒は膜状にみえることはない、(4)柔細胞の方が小さいなどである。
柔細胞の検鏡にあたっての注意
携帯型顕微鏡を使用した柔細胞の検鏡にあたっては、輝度の高いLEDライトを直接に料紙の裏面にあてて光線を透過させることが必要である(10センチ離しても見えなくなる)。歴史学関係で、一般に使用されてきた蛍光灯の透過光パネルでは光度が不足して、曖昧に「膜状」のものがみえることはあるが、「膜」内部の柔細胞までみえることはない。
これまでその透過光パネルによって、何か膜があるのではないかという推定が繰り返されてきたが、十分な明るさによって膜内部の構造をてらしださねば柔細胞の観測はできないということです。
これによって柔細胞紙という物理分類が可能となる。これが確認できなかったために、しばしば柔細胞紙(歴史用語としての美濃紙)が澱粉紙(歴史用語としての杉原)との区別ができなかった。
なお、これまでのところ、検鏡には、(1)100倍のピークがよく、(視界がもっとも明るいため)、(2)ディスプレイでみるためには杉藤がよい。
柔細胞の画像
下記は、長谷川和紙工房作成の料紙の柔細胞について、王子製紙株式会社・研究開発本部、東雲研究センターのご協力により光学顕微鏡で撮影したもの。
(黄色やうす茶色の粒子は柔細胞よりも圧倒的に大きい。これらの粒子が何か、その物性はどうかが次の問題)。
〈「生漉紙」の微分干渉観察(×100倍)〉

〈「生漉紙」の微分干渉観察(×400倍)〉

〈「生漉紙」の位相差観察(×400倍)〉

(参考) 柔細胞の手書き画像1
(参考) 柔細胞の手書き画像2

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