朱印船のアジア史的研究

活動報告

2017年3月26~27日、京都大学人文科学研究所において、第8回朱印船科研研究会を開催いたしました。

オブザーバーとして、国際日本文化研究センター准教授の佐野真由子氏、立命館大学助教ピアダー・ショーンラオン氏、京都大学大学院の阿久根晋氏のご参加を得ました。初日には、同志社大学准教授の堀井優氏にご報告をお願いし、研究協力者がコメントをしました。2日目には、岩生成一の大著の書評会を行いました。プログラムは、以下の通りです。

26日(日)
報告   堀井優「近世オスマン条約体制とヴェネツィア領事網」
コメント 原田亜希子「コメント―16世紀ローマとの比較の視点から―」
彭浩「東アジア世界の『約条』―『条約』との関連を含めて考える―」
討論
27日(月)
『新版朱印船貿易史の研究』書評会
報告 岡本真(第1編、第2編)
蓮田隆志(第3編、第4編)
討論

 堀井氏のご報告と討論から、「国書」と「通航管理」に続くテーマとしての、「領事」と「条約」が浮かび上がってきました。将来的な課題としたいと思います。また、『新版朱印船貿易史の研究』の書評会から、本共同研究の課題や立ち位置があらためて確認されました。
2日目終了後に、京都大学東南アジア地域研究研究所の小泉順子教授と懇談の機会を得小泉氏日本史、東南アジア史を英語で発信した経験について情報や意見を交換しました。本科研は、英語での発信にも力を入れていますが、まだ試行錯誤の状態です。
小泉氏に、東南アジア地域研究研究所図書室の、石井米雄旧蔵書をみせていただき、日本史より進んでいる東南アジア史分野の英語発信が、一朝一夕で可能になったわけではなく、故石井米雄氏を始めとする多くの先人の蓄積の上に成り立っていることを改めて感じました。
(所属、肩書は、研究会当時)

(文責:松方冬子)

2017年3月16日、東京大学東洋文化研究所において、松方が主催し、2016年12月に開催されたworkshop "Towards a Transcultural History of Diplomacy" を日本語で振り返り、世界史を語る方法、対話の可能性をさぐることを目的として、「外交史ワークショップを日本語で振り返る会」を開催しました。

本科研メンバーから、岡本、川口、松方が参加しました。ヨーロッパ(とくにドイツ、東欧など)で流行しつつあるNew Diplomatic Historyや、日本で蓄積されてきた対外関係史などを振り返りつつ、歴史学の現状について、深い議論ができたように思います。

(文責:松方冬子)

2017年3月13日-18日、木村可奈子が台湾(中華民国台北市)で史料調査を行いました。

中央研究院歴史語言研究所所蔵の内閣大庫檔案に含まれる、朝鮮、琉球、ベトナム、シャム等からの外交文書を調査しました。所蔵状況の確認のほか、一部は実物を調査し、各国の外交文書の体裁の違いを把握できたことは、大きな収穫となりました。内閣大庫檔案以外にも、国際関係史に関連する漢籍史料などを収集しました。

(文責:木村可奈子)
中央研究院歴史語言研究所 外観

(中央研究院歴史語言研究所 外観)


韓国現地調査報告

 2017年3月5日-9日にかけて当朱印船科研のメンバー3名(松方、木村、原田)にて韓国巡検を行い、ソウル、釜山を訪れました。
ソウルでは景福宮、国立古宮博物館、昌徳宮、国立中央博物館、国立ハングル博物館を、釜山では東莱邑城(東莱邑城歴史館)、東莱郷校、東莱府東軒、朝鮮通史歴史館、豆木浦倭館跡(釜山鎮駅周辺)、草梁倭館跡(龍頭山公園)を見学し、近世の日朝・中朝関係に対する見識を深めました。中でも特に豆木浦倭館は、17世紀後半に草梁倭館に移転したため、現在は、倭館跡は残っていないものの、倭館があったと思われる場所の近くに現在ある東区区庁にて教えていただき、おそらく倭館の壁であっただろうと言われるものを実際に目にすることができたことは、個人的に非常に印象的でした。また今回訪れた史跡や展示施設では、例えば景福宮では現在も大々的に新たな拡張・復元作業が進められていることや、国立ハングル博物館が史料だけでなく、マルチメディア技術を活用した多様な展示を行う施設として2014年に新しく開館していることなどからも、韓国が自国の歴史・文化を次世代に伝えることを重視し、国家規模で取り組んでいる姿勢を強く感じました。
また釜山では東亜大学校日本学科助教授申東珪氏と、ソウルではソウル大学校東洋史学科教授丘凡眞氏、ソウル大学校奎章閣韓国学研究院准教授金時徳氏、ソウル市立大学校国史学科博士後研究員鄭東勲氏、同じくソウル大学校国際大学院講師金泰勲氏と、本科研の研究に関する情報交換を行いました。同じ漢字文化を共有していることからも、我々の質問に対してすぐに核心に迫る返答を得ることができ、2時間という限られた時間でありながらも、非常に中身の濃い議論となりました。我々と言語のみならず、問題関心においても近い視点を感じる一方で、今後東アジアの歴史を欧米に発信していく上での言葉の使い方、英語に対する意識においては両国の研究者の立ち位置の違いなども垣間見られ、様々な面で今後の交流の可能性が期待できると感じられました。またソウル大では奎章閣韓国学研究院内の展示スペースを案内していただいただけでなく、特別に書庫も見させていただきました。
今回の巡検に参加した個人的な感想として、ヨーロッパ史を専門としているためにこれまでヨーロッパを訪れることが多く、アジアの国を訪れるのは今回が初めてに近かったため、当初は日本との近さ、類似点が印象的でしたが、滞在日数を重ねるにつれ、「似て異なる国」であることを実感しました。この類似点・相違点は単に街のつくりや生活環境という点だけでなく、歴史研究においても言えることのように感じます。近世ヨーロッパを研究する日本人研究者として、常に研究対象である近世ヨーロッパを自らの過去に持つ研究者との違いを痛感し、またそのことを逆にどのようにして利点にできるのかということを自問してきましたが、今回の韓国では同じ漢字文化を共有し、物理的にも近い韓国との間にも違いは存在するのであり、日本人による東アジア史研究、ひいては今後「人類のための世界史」研究を行う上での課題を考えるきっかけになったように思います。
(所属、肩書は、調査当時のもの。)

(文責:原田亜希子)

ソウル 国立ハングル博物館

ソウル 国立ハングル博物館



釜山 豆木浦倭館跡

釜山 豆木浦倭館跡



ソウル大学校奎章閣韓国学研究院 書庫

ソウル大学校奎章閣韓国学研究院 書庫


タイ現地調査
2017年2月17日~22日、松方冬子、蓮田隆志、川口洋史、木村可奈子、岡本真がタイで史跡調査を行ないました。今回の調査では、バンコク、アユタヤ、ロッブリーを訪れました。

 バンコクでは、王宮およびワットプラケーオ(王宮寺院)のある地区に赴き、外交文書が保管されていた王室文庫、貨幣博物館等を巡見しました。特に印象に残ったのは、王室文庫が寺院の敷地内に位置していた点です。日本と比較すると、同時代の江戸幕府は外交文書を江戸城内の紅葉山文庫に保管していたので、隣接するとはいえ王宮外の寺院に文庫が置かれていたのは、格別なようにも思われます。しかし、日本も室町幕府の時には、相国寺蔭凉軒に外交文書が保管されており、寺院内に保管場所が設けられていた点では、王室文庫と同様でした。
また、バンコク滞在中には、チュラーロンコーン大学人文学部歴史学科のブハワン氏を訪問しました。我々が現在遂行している研究に関連する情報交換を行ない、今後の本科研とのジョイント・ワークショップ開催の可能性について話し合いました。
アユタヤでは、日本町跡、オランダ東インド会社商館跡、ポルトガル町跡、王宮跡、アユタヤ歴史研究センター、国立博物館等に赴きました。朱印船貿易と密接にかかわる日本人町跡の展示では、映像解説が充実していました。また、特にオランダ東インド会社商館跡には充実した展示施設があって、出土品を実見することができ、朱印船の往来と同時代のアユタヤにおけるオランダ東インド会社の活動について、見識が深まりました。日本町跡、オランダ東インド会社商館跡、ポルトガル町跡は、ともにバンコク湾からチャオプラヤー川を遡上してアユタヤ中心部へ至る手前の郊外に位置していますが、実際現地に赴いてみると、地図を見て想像していた以上に、アユタヤ中心部から離れている印象を受けました。このように居留地が政治的中心からやや外れた場所にある点は、例えば古琉球期の那覇における華人や倭人の居留地など、他所の外国人居留地とも一定の共通性があるように見受けられます。
ロッブリーでは、アユタヤ朝ナーラーイ王時代の遺構である、フォールコン屋敷跡やプラ・ナーラーイ・ラーチャニウェート(ナーラーイ王の離宮跡)等を訪れました。前者は17世紀後半に到来したフランス使節の滞在した場所で、後者には、同時期にフランスやペルシャからの使節を饗応した迎賓館が設けられていました。両者ともに遺物をもとにかなりの程度復元されており、焼き煉瓦が建材として用いられた、西洋風の建物に見受けられました。中世の日本では主として寺院が外国使節接待の場所として用いられており、それは江戸時代の朝鮮通信使も同様でしたが、アユタヤ朝では専用の接待施設が設けられ仏教寺院はそれにあてられてはいなかったようで、両国における仏教寺院の位置づけの差異も感じられました。

(文責:岡本真)

バンコク ワットプラケーオ内 王室文庫

(バンコク ワットプラケーオ内 王室文庫)



バンコク チュラーロンコーン大学人文学部

(バンコク チュラーロンコーン大学人文学部)



アユタヤ オランダ東インド会社商館跡 顕彰施設

(アユタヤ オランダ東インド会社商館跡 顕彰施設)



ロッブリー プラ・ナーラーイ・ラーチャニウェート

(ロッブリー プラ・ナーラーイ・ラーチャニウェート)


2016年12月9~11日、東京大学東洋文化研究所において、Global History Collaborative 主催のワークショップTowards a Transcultural History of Diplomacyが開催され、松方が基調講演を行いました。本科研メンバーから、岡本、川口、木村、蓮田が参加しました。

活発な討議が行われ、歴史学の最先端を感じました。

ワークショップについての詳しい報告はこちら

講演風景


2016年10月17日~20日、北海道巡見

 当朱印船科研メンバー3名(松方、橋本、木村)および ロナルド・トビ氏(イリノイ大学名誉教授)の4名にて、函館・江差・上ノ国・松前巡検を行いました。
函館では、五稜郭(箱館奉行所)、函館市北方民族資料館、市立函館博物館、中華会館、外国人墓地、江差では開陽丸記念館、上ノ国では勝山館、松前では松前城を見学し、中世から近代までの北方史に対し見識を深めました。
特に近世日本の「四つの口」の一つとされている松前では、教育委員会の方から城下町を詳細に描いた松前屏風の解説をじっくりと伺うことができ、貿易港としての松前の活気に満ちた様子を理解することができました。松前からは津軽海峡を挟んだ対岸の青森津軽半島、さらには岩木山がはっきり目視でき、地理的条件をよく理解できました。函館でも対岸の下北半島を目視することができ、地図上でばかり考えると、つい海を「隔てるもの」と考えてしまいますが、逆に海路で繋いでいることをよく実感できた巡検でした。

(文責:木村可奈子)

松前城

(松前城)


津軽半島

(松前城から津軽半島の竜飛岬と小泊・岩木山を望む)


2016年10月8~9日 朱印船科研第7回研究会「オランダから考える外交」 於:東京大学史料編纂所

 10月8日には福岡女子大学の吉田信氏をお招きし、近代アジア地域のパスポートについて、蘭領インドを中心にご報告いただきました。併せて、松方冬子が17世紀オランダ共和国の外交と政治の中心地デン・ハーグの町について報告しました。
吉田信報告「オランダ領東インドにおける旅券制度の構築と移動の自由」
松方報告「17世紀オランダの外交とデン・ハーグ」
10月9日(日)には科研メンバーのみで、朱印船時代の日本往来の国書と一覧表作成にむけて作業報告会を行いました。
松方報告は、17世紀オランダを中心に、必ずしも一元化されていない外交体制を検討するものでした。外交使節が首都ハーグに入ってくるルートや行列・接待の様子、複数の信任状の存在、連邦議会と総督との縄張り争いなど、興味深い事実が報告されました。吉田信氏の御報告は、近代オランダや東インド領のパスポートについて、様式論および機能論から現物に即して理解するという内容でした。パス/パスポートの原理的側面にも照射する内容で、本科研メンバーに実に示唆的なものでありました。 両報告を通じ、オランダというサンプルから国民国家が出来上がる前/後の外交や通商、越境のありさまが見えてきたといえます。パスポートや国書・使節の比較史を進めるうえで、大きな糧となることでしょう。

(文責:橋本雄)

史料編纂所


2016年8月31日、9月1日に中華民国台北市中央研究院で開催された国際会議Maritime Worlds around the China Seas: Emporiums, Connections and Dynamics に、松方冬子が出席し報告"Countries for Commercial Relations (Tsusho-no-Kuni 通商国):The Tokugawa Struggle to Control Chinese in Japan"を行いました。

出席者から貴重なご意見をいただきました。会議の成果は、出版される予定です。

中央研究院

(中央研究院)


報告風景

(報告風景)


2016年7月21日~23日 第6回朱印船科研研究会 於:北海道大学文学部

北海道大学教授山本文彦氏、准教授谷本晃久氏、大学院生丁竹君氏から本研究に関連するテーマについてご報告をいただきました。また、研究協力者の発表と討議が行われたほか理論的な枠組みについても話し合いました。東京大学准教授守川知子氏からは、西アジア史の知見からのコメントを頂戴しました。報告内容は、以下の通りです(発表順)。

山本文彦氏報告「神聖ローマ帝国内外のID・パスポート」 (松方冬子コメント)
谷本晃久氏報告「家康黒印状から見る和人・アイヌの交流・接触」(岡本真コメント)
木村可奈子報告「中国・朝鮮史料上の「国書」」
原田亜希子報告「ヴァチカン図書館・文書館所蔵史料から見る近世教皇庁外交
―東アジア諸国との書簡史料の保存状況と教皇庁外交官の活動―」
丁竹君氏報告「明代進貢品の内府庫納入プロセスについて」
総合討論 松方冬子論点整理 守川知子コメント

最終日には、北海道博物館巡検を行い、同館学芸員の三浦泰之氏のご高配により、徳川家康黒印状の熟覧を行いました。


(本ページの無断転載を禁止します。)

松方 冬子(まつかた ふゆこ) 東京大学 史料編纂所 准教授 博士 (文学) Associate Professor,the University of Tokyo Ph.D.(the University of Tokyo, 2008)

主要研究業績

販売書籍

  • 国書がむすぶ外交(東京大学出版会)
  • 日蘭関係史をよみとく 上巻:つなぐ人々 下巻:運ばれる情報と物(臨川書店)
  • オランダ風説書と近世日本(東京大学出版会)
  • 別段風説書が語る19世紀 翻訳と研究(東京大学出版会)
  • オランダ風説書「鎖国」日本に語られた「世界」(中央公論新社)

MEMBERS ONLY