東京大学史料編纂所第10回史料学セミナー講義概要

中藤靖之・高島晶彦 文化財保存修理の現状―「実隆公記」「高倉家史料」等の修理と材料・道具から―

文献史料は、折り畳んであったり、巻いてあったり、あるいは軸装、冊子などの形状になって成立している。その保存修理には、表装・表具という伝統技術が広く使われ、技術・技法は、伝承・経験・開発によって保管されている。この時間は、修理を施した史料と従来から使われている材料(和紙)、道具を見ていただき、修理の原則と保存・公開・活用を考えてみたい。

山口英男 「正倉院文書」の調査と史料編纂所

総点数1万点といわれる正倉院文書は、古代史研究にとっての基本史料です。史料編纂所は、この正倉院文書の調査を100年以上にわたって継続して実施し、その成果を研究に利用できるように公表してきました。調査の課題は現在も数多く残されています。正倉院文書の調査が、古代史研究の発展とどのようにかかわってきたのか。正倉院文書の特質や、文書の具体的内容、近年の調査成果にも触れながらお話したいと思います。

本郷恵子 「薩戒記」にみる公家日記の書写と伝播

「薩戒記」の記主中山定親(1401〜1459)は、武家伝奏として政治的に重要な役割を果たした人物ですが、故実といわれる朝廷の儀礼・作法等にも造詣が深く、さまざまな薀蓄をせっせと書きとめています。故実に対する関心は、前近代の人々にとって、時代を超えて共有されるものであり、「薩戒記」の記述は多くの人々に参照されることになります。定親による過去の記録や故実書の蒐集と、後代への影響についてお話ししたいと思います。

高橋敏子 「東寺文書」編纂のあゆみ

京都東寺に伝来した文書群は、近代歴史学において研究の素材として多用されてきたが、実は一般に知られていなかった文書がさらに存在しており、全貌が明らかになったのは、「東寺百合文書」が京都府所蔵となってその整理が終了した1970年代であった。このような東寺文書の扱われ方の歴史を、編纂のあゆみなどを通してみていきながら、文書をみる視点について考えてみたい。

保立道久 「大徳寺文書」の箱について

現在、大徳寺文書をおさめている八個の文書箱の状況を紹介し、同時に、おもに室町時代の大徳寺における宗教財と文書を納める「法衣箱・重書箱」、さらに曝涼の問題などについてお話しします。

田中博美 本所所蔵の禅籍貴重書―「蔭涼軒日録残簡」を中心に―

「蔭涼軒日録」は京都相国寺の慈照院旧蔵の原本ですが、明治末期に東京帝国大学図書館が購入し、大正大震災で殆どが焼失してしまいました。が、奇しくもそのうち三紙が本所に残ります。その他本所収蔵の貴重な禅籍の中から中世を中心にご紹介し、一般の史料とは違う禅籍の扱い方についてお話します。

近藤成一 島津家文書「歴代亀鑑」について

「歴代亀鑑」は薩摩島津家に伝来した古文書のうちから、名品を選りすぐって編まれた手鑑である。そのうちのいくつかを取り上げ、中世島津家の歴史の解明を試みる。古文書から字面以上の情報を読み取る方法を提示したい。

山本博文 「島津家文書」の構成について

平成14年6月、国宝に指定された島津家文書は、総点数15,000点に及ぶ武家文書群である。本講座では、島津家文書の現在の構成を検討することによって、大名家における文書の意味や大名家がどのようにして文書を残してきたかを明らかにする。あわせて本所の史料展覧会に出品する文書の紹介も行なう。

佐藤孝之 江戸幕府普請役「田村家文書」の構成

本所所蔵「田村家文書」は、旗本田村氏の四代(義智―義利―義察―義質)にわたる史料群であり、時期的には江戸時代後期から明治30年代におよぶ。その中でも、天明期から文化期にかけて幕府普請役や京都入用取調役などを勤めた田村義智の職務関係史料が多数を占めている。そこで、「田村家文書」の全体を紹介するとともに、とくに普請役・京都入用取調役などの関係史料について詳しく分析してみたい。

保谷 徹 在外史料からみる幕末史 ―本所収集の外国史料群―

史料編纂所の史料収集・研究の範囲は海外にも広がっています。ここでは、海外に所在する日本関係史料について概観し、ここ数年取り組んできた収集史料を用いて、幕末の軍事・外交にかかわる事件やトピックスをご紹介したいと思います。