東京大学史料編纂所

研究種目名 基盤研究(C)
研究課題名 維新政権期における明治太政官文書の生成・蓄積と伝来に関する復元的研究(15K02859)
研究期間 2015年度~2017年度
研究代表者 箱石 大
研究目的 本研究は、従来、文書原本がほとんど失われているとして、事実上研究の 空白期間とされてきた維新政権期(一八六七年の王政復古による新政府の成 立から一八七一年の廃藩置県までの時期)における明治太政官文書を研究の 対象とし、①最近、国立公文書館・東京大学史料編纂所で現存が再確認され た明治太政官文書原本群と、②府藩県三治制という当該期の地方統治体制の 中で大きな比重を占めていた諸藩の側に残る明治太政官関係文書を素材に、 文書個別の形態・機能のみならず、文書群として生成・蓄積された過程とそ の構造の復元・分析、及び文書群としての様態や所蔵形態を様々に変遷させ ながら今日まで伝来してきた経緯の解明を行なうことにより、近世・近代移 行期文書論の創成や、維新政権期政治史研究のための史料学の構築に貢献す ることを目的としている。
本研究では、①国立公文書館と史料編纂所に分割所蔵されている維新政権 期明治太政官文書原本群と、②各地に現存する旧藩大名家文書から抽出した 明治太政官関係文書を対象に、文書群としての生成・蓄積過程とその構造の 復元・分析、及び文書群としての伝来経緯の解明を、各年度にわたって同時 並行的に進める計画とする。研究用データの収集は、各所蔵機関において文 書原本などを直接閲覧・調査して実施するほか、デジタルカメラを使用した 写真撮影によって行なう。
①国立公文書館と東京大学史料編纂所に分割所蔵されている明治太政官文書 原本群の分析
史料編纂所所蔵「復古記原史料」の整理未着手分の目録データを作成して 公開するとともに、これに関連する内容の国立公文書館所蔵文書簿冊類「雑 種公文」などについては件名目録を作成し、両者のデータを照合した結果を 踏まえ、本来は一体であった維新政権期明治太政官文書群の構造、文書の処 理システム、文書群としての生成・蓄積過程の復元・分析、及び管理・保存 状況とその伝来の経緯の解明を行なう。
②旧藩大名家文書から抽出した明治太政官関係文書の分析
触頭諸藩を中心に、各地に現存する主要な旧藩大名家文書から明治太政官 関係文書を抽出・調査し、文書の内容とともに、太政官と諸藩間の文書授受 システムの復元・分析、及び諸藩側における太政官関係文書の管理・保存状 況と現在までの伝来の経緯の解明を行なう。
③研究成果の公開
本研究で新たに作成した「復古記原史料」の一点ごとの目録情報は、史料 編纂所が公開している「所蔵史料目録データベース」に登録し、国内外の利 用者がインターネット上で自由に検索できるようにする。また、これ以外の 研究成果については、『東京大学史料編纂所報』・『東京大学史料編纂所研究 紀要』・『東京大学史料編纂所附属画像史料解析センター通信』などにより随 時公開する。
研究実績の概要
  • 2016年度
  • 2015年度
【2016年度】
 本年度の研究成果は、以下の通りである。
①国立公文書館と東京大学史料編纂所に分割所蔵されている明治太政官文書 原本群の分析
 史料編纂所所蔵「復古記原史料」については、研究協力者石田七奈子氏の 助力を得て、整理未着手分の整理・目録データ作成、及びその内容分析を進 めた。本年度は一七六九件の目録データ作成が完了した。また、奈良県立図 書情報館所蔵の「奈良鎮撫総督府等宛諸旗本家等口上書」(一四〇点)を調 査した結果、元交代寄合の平野長裕(居所は大和国十市郡田原本)ほか、大 和国内に知行所を有する旧旗本たちが大和鎮台・大和鎮撫総督府に提出した 文書の原本群であることを確認した。
②旧藩大名家文書から抽出した明治太政官関係文書の分析
【秋田県公文書館】同館所蔵の古内家文書のうち、戊辰戦争期における秋田 藩軍将の古内左惣治(義完)に関する文書類を閲覧し、古内が作成した戦争 届書の控えや軍中日誌などを調査・撮影した。また、奥羽鎮撫総督府監軍の 上田雄一から古内に宛てた書状が多数現存することを確認し、これらについ ても調査・撮影した。
【金沢市立玉川図書館近世史料館】同館所蔵の加越能文庫に「太政官布告并 諸官省御達等」との表題で、明治二年から同四年までの期間に維新政府の諸 官省から北陸諸藩の触頭である金沢(加賀)藩に発給された文書の原本が六 百数十点ほど現存していることを確認した。また、前田家による加賀藩戊辰 戦史編纂事業の集大成と言える「加賀藩北越軍事輯録」が、現状では加越能 文庫の独立した一書目として登録・架蔵されているが、本来は「旧金沢藩事 蹟文書類纂」に別輯として付属するものであることを明らかにした。この「旧 金沢藩事蹟文書類纂」は、明治二十一年七月、宮内大臣より島津(薩摩)・ 毛利(長州)・山内(土佐)・徳川(水戸)の四家に対して幕末維新期国事鞅 掌史料の編纂・提出が下命されたことを発端とし、翌年四月に史談会が設立 され、最終的には旧大名華族諸家全体に同様の命令が出される中で、同二十 四年、宮内大臣から前田家にも編纂・提出が命ぜられたものである。完成後 は宮内省に提出され、現在は宮内庁書陵部図書課図書寮文庫にその提出原本 が所蔵されていることから、加越能文庫本は前田家側の控えであると推測さ れる。さらに、「旧金沢藩事蹟文書類纂」及び「加賀藩北越軍事輯録」の編 纂材料となった文書類の多くが加越能文庫に現存していることも確認した。 【福井市立郷土歴史博物館・福井県立図書館】福井市立郷土歴史博物館保管 の越葵文庫にある越前松平家家譜のうち、維新期の当主茂昭の家譜(「家譜  茂昭公」)は、維新政府から福井(越前)藩への下達文書及び同藩からの 上申文書を克明に記録しており、維新政府と諸藩間における文書の往復状況 を知ることができる有益な史料であることが明らかとなった。また、同館所 蔵の春嶽公記念文庫にある「会津征討出兵記」(八巻)が、福井県立図書館 所蔵の松平文庫にも現存し、これが越前松平家家譜を主要な引用書目として いることを確認した。
 なお、本年度実施した出張調査・発表論文等は、以下の通りである。
〔出張調査〕
秋田県公文書館所蔵秋田藩維新期関係史料の調査・撮影(二〇一六年六月 二七日~三〇日)
金沢市立玉川図書館近世史料館所蔵加賀藩維新期関係史料の調査・撮影(二 〇一六年七月一五日~一六日)
石川県立図書館・金沢市立玉川図書館近世史料館所蔵加賀藩維新期関係史 料の調査・撮影(二〇一六年八月八日~一〇日)
奈良県立図書情報館所蔵維新期関係史料の調査(二〇一六年九月二九日~ 三〇日)
福井市立郷土歴史博物館・福井県立図書館所蔵維新期関係史料の調査(二 〇一七年一月一七日~二〇日)
〔論文〕
箱石 大「加賀藩前田家の戊辰戦争届書」(東四柳史明編『地域社会の文 化と史料』同成社、二〇一七年二月)
白石 烈「佐倉藩公務人(貢士)依田学海の「藩制議」―京都御所東山御 文庫別置御物収蔵の建言書―」(『佐倉市史研究』第三〇号、二〇一七年三 月)
〔新聞報道〕
「戊辰戦争 新政府側が情報戦」(『読売新聞』二〇一七年三月二九日朝刊・ 文化欄)
備考